懐かしい場所
「絵の展示があるから、行こう」
そう言われて、なんとなくついて行った場所は、子どもの頃よく行っていた映画館(文化センター)だった。
絵の展示よりも、懐かしい場所に行くことに、ちょっとわくわくした。
何もなければ通らない場所、というわけではない。
映画館周辺の建物も、ずいぶん変わっていたし、もうその風景に、馴染んでいた。
全てがガラッと変わったわけじゃない、古い建物と新しい建物が、うまい具合に共存している。
私の地元の、好きな場所のひとつでもあった。
文化センターの中に入って、その雰囲気や匂いに包まれて、一瞬、あの頃の自分に戻ったような、不思議な感覚におちいった。
地元の文化センターで映画を見ていたのは、小学生の頃だった。
(中学生になると、大きな映画館に行くようになる)
ここに、誰とよく来ていたんだっけ?
その記憶はぼんやりとしていて、ハッキリと思い出せなかった。
中学生の頃の友達や、高校生の頃の友達のことは、今でもよく覚えている。
小学生の頃の、友達関係の多さに驚かされる。
家が近所だとか、親が仲良しだとか、兄弟の友達だとか、男も女も関係なく、もう誰とでも遊んでいた。
だから、誰と来たのかは、なんとなく想像はつく。
でも、誰とでも来ていたわけではない気がする。
見ていた映画は、ウルトラマンとか、ゴジラとか、ドラえもんとか、ちびまる子ちゃん。
あの頃は、映画の途中で、飽きて帰ったりもした。
お母さんともよく行った。
お母さんは、いつも隣で寝ていた気がするけど、今なら、わかる気がする。
高校生になってからは、小学生の頃の友達と、全く会わない。
だから、小学生の頃の思い出話を、することがない。
そう思うと、今になって突然、会いたくなったりする。
忘れかけていた過去の思い出を、もうずいぶん開けていなかった引き出しから、取り出したくなっている自分がいた。
この道を、私は、子どもと歩くだろうか。
この場所に、私は、子どもと来るだろうか。
今、私の生活している場所はここじゃないから、来ないかもしれない。
もう来ないかもしれない、そう思った。
涙が出た。
子どもを生んで、4ヶ月、いろいろなことに気づかされる。
人生の、折り返し地点に立っているような、そんな気がした。